(記事執筆:Team NanatsuBa 九州エリア しおさいオフィス代表 中村 剛康)
福岡市といえば九州最大の都市(政令都市)であると同時に、全国に先駆けて「イベント民泊」を実施するなど、民泊サービスの推進にも積極的に取り組む都市として知られています。
今回はその取り組み内容について解説していきましょう。
まずはおさらい
一般に「民泊」と呼ばれるサービスには、旅館業法上の許可を取って行われる「簡易宿所」、国から指定された地域(国家戦略特区)の中で認定を受けて行われる「特区民泊」、そして年に一度のイベント時に自治体の要請によって行われる「イベント民泊」があります。
このうち二番目の「特区民泊」は、指定された全国10の地域の中でもさらに限られた都市のみが対象になるため、国内の大半の市区町村にとっては縁のない制度です。
また、三番目の「イベント民泊」も、具体的なイベントの開催に加えて「宿泊施設の不足が見込まれる」ことや「公共性が高い」といった要件が必要となるため、いつでもどこでも活用できる制度とはいえません。
こうした事情を考えると、民泊サービスの基本はあくまで最初に挙げた「簡易宿所」であると言えます。
福岡市のスタンス
話を福岡市に戻しましょう。
福岡市は国家戦略特区に指定された10の地域のひとつです(「福岡市・北九州市」として指定)。
つまり特区民泊の大前提となる基本条件は満たしています。さらに冒頭でも触れた通り、平成27年度に「社会実験的取り組み」としてイベント民泊を実施していることから、イベント民泊を実施するための各種条件もクリア済みです。
これに旅館業法上の簡易宿所を合わせると、福岡市には民泊サービスの全メニューが揃っていることになります。
ところが、福岡市がこれらすべてのメニューを使い倒そうとしている様子は見られません。少なくとも現時点では、特区民泊を実施するための「区域計画」を作成していませんし(ちなみに北九州市では作成済み)、イベント民泊についても前回の実施結果が振るわなかったためか「具体的な次の予定」は立てられていません。
ま、こっちは大規模イベントの開催が前提となるので、自治体の意向だけでどうこうできるものでもありませんが…。
一方で簡易宿所については積極的で、特に6月17日の市議会(定例会)では条例改正に向けた具体的な手順とスケジュールが示されています。
福岡市旅館業法施行条例の改正
この福岡市の動きは、実は国の動きと連動したものです。Airbnbなどを利用した無許可民泊施設(ヤミ民泊)の増加に対応するため、国は4月1日から旅館業法施行令を一部改正して、簡易宿所となる施設の「延べ床面積」と「フロント設置」の基準を緩和しました。
これに合わせて、福岡市も旅館業法施行令の福岡市版である「福岡市旅館業法施行条例」を改正するというわけです。
議事録によると、改正が検討されている項目はふたつです。まずはフロントに関する規定。現在の条文はこうです。
帳場が,宿泊者その他の施設の利用者(以下「宿泊者等」という。)の出入りを容易に確認することができる位置に設けられていること。(第3条の3)
改正前の国の基準(施行令)と同様の内容ですが、これを改正後の国の施行令に合わせて改正します。
続いて福岡市が独自に「上乗せ」している規定。
施設は,玄関,客室その他宿泊者等の用途に供する施設を一体的に管理することができる構造であり,かつ,住居その他の施設と明確に区画され,これらが混在していない構造であること。(第3条の9)
居住用の集合住宅(マンションなど)については、簡易宿所等に転用するなら一棟まるごとじゃないとダメ(一部の「空き部屋」だけ転用するのはダメ)ですよ、という規定です。
で、この規定はおそらく廃止されます。
なお条例改正についてのパブリックコメントは7月4日〜8月3日の31日間で、それを受けた条例改正案は9月の市議会に上程される予定です。
雑感
福岡市が特区民泊ではなく、ましてやイベント民泊でもなく、旅館業法上の簡易宿所に力を入れる背景には、①宿泊施設の需給の逼迫の解消と、②既存の空き家・空き室の有効活用、という切実なニーズがあります(市議会議事録より)。
単純に②の理由だけなら特区民泊でも良いんですが、①の目的を考えると、6泊7日以上の利用という(特区民泊の)縛りは大きなネックになります。
ぶっちゃけて言うと、そんなに連泊するのは一部の外国人旅行者くらいなものでしょう。あらゆる目的の宿泊需要に対応するためには、特区民泊の制度では力不足です。
というわけで個人的にも、福岡市のこの方向性が一番現実的だな…という印象ですね。
もちろん国が特区民泊の日数基準を緩和してくれるなら話は別ですが、実際の規制緩和はそんなに簡単な話じゃありません。
ですから、九州地方で民泊経営に本気で乗り出したいのであれば、やはり狙うべきは簡易宿所の許可取得です。
今後は福岡市以外にも条例改正に乗り出す市区町村が増えてくるでしょうから、ご自身に関係がある地域の動きには十分注目しておいてくださいね。
もちろん、ご相談も随時承っています。
(記事執筆:Team NanatsuBa 九州エリア しおさいオフィス代表 中村 剛康)
冬木 洋二朗
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