大田区での特区民泊の際に必要となる近隣住民に対する周知について解説します。ここは、皆さんが一番気になっている部分ではないでしょうか。
近隣住民への周知については、当初から話題になっていました。僕が去年の11月に書いた民泊の際の身元確認、近隣住民への影響に対する一定の方向性の中でも近隣住民に対する事前説明理解義務として触れていますが、まさかこんなに厳しく近隣住民への周知を要求してくるとは思っていませんでした。
大田区が出してきたこの基準は、おそらく特区民泊に関してのスタンダードになりますので、特区で民泊をやりたいと考えている方はこの近隣住民への周知は、理解しておかなければならない事項ということになります。
原状で不明な点もありますが、判明している部分だけでもしっかりと見てみましょう。
審査基準なのか?
近隣住民への周知は、特区民泊の「審査基準」ではありません。
特区民泊の審査基準は、特区法施行令12条で規定されていますが、そこには近隣住民への周知義務の規定はありません。
もっとも、審査基準でないからと言って無視できるかというと、そうゆうわけでもありません。
特区民泊における周知義務は、審査基準ではありませんが許可取得に大きな影響を与える一つの「指針」です。
近隣住民への周知の結果、反対者が一人でもいたら民泊ができないのか?と言われればそうではありませんが、マンションの住人の半数以上が民泊に反対とのことであれば、許可を取得・継続することは難しいだろう、というのが大田区の考えです。
そして、周知義務については許可基準、審査基準ではないが、ケースバイケースで具体的な事案ごとに対処をしていくというスタンスです。
なんとも、ふわっとした感じですが、始まったばかりの特区民泊ではこうゆうケースが多々あります。
反対運動、近隣住民の半数以上が反対
では、実際に近隣住民の反対運動やマンション住人のほとんどが反対した場合にはどうなるのでしょうか。
この場合、既に民泊許可を取得している場合は許可取消対象に、民泊許可申請中の場合はおそらく不許可となります。
根拠は、こういった場合は特区法13条9項3号「政令で定める要件に該当しなくなったとき」にあたるからです。
大田区のガイドラインには、近隣住民とのトラブルから外国人滞在施設経営事業が円滑に運営できなくなり、その結果として施設の滞在者の平穏な滞在に支障が生じるに至った場合等には「政令で定める要件に該当しなくなったとき」にあたります、との記載があります。
ようするに、ゲスト旅行者が反対運動のせいで平穏な宿泊ができなくなった場合には、許可を取り消します、ということです。この、特区法の規定と大田区によるガイドラインの解釈によって実質的に周辺住民の理解なしには特区民泊はできなくなります。
特区民泊をお考えの方は、その点について注意が必要です。ただ、周知すれば良いというわけではありません。
周知方法
周知方法はポスティングで構いません。対面での周知ができればより良いでしょうが、ポスト投函で構わないとのことです。
周知事項
基本的には以下の事項です。
- 申請者の氏名
- 施設の名称、所在地
- 苦情窓口の連絡先
- 廃棄物の処理方法
- 緊急時の対応方法
周知時期
周知時期、周知期間についての決まりはありません。ポスティングしてから1日後に申請しても良いですし、1週間近隣住民の反応を待ってから申請しても良いとのことです。
近隣住民からの良い反応が期待できないのであれば、ポスティング後、少し間を空け、良くない反応にしっかりと誠意をもって対応した後に申請するほうが良いでしょう。いずれにしろ、申請されてから許可がおりるまでに時間がかかるわけですから、近隣住民からの反応を待たずに申請しても、反対運動が起きれば同じことです。
周知範囲
周知範囲はちょっと複雑です。
まずは周知範囲について触れている大田区の民泊規則第9条をみてみましょう。
(近隣住民の範囲)
第9条 条例第4条に規定する当該特定認定に係る事業計画の内容を周知する近隣住民とは、次に掲げる者とする。
(1) 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物に他の施設が存する場合の当該他の施設の使用者
(2) 次のア又はイに掲げる建物(一方の建物の外壁から他方の建物の外壁までの水平距離が原則として 20 メートルを超えるものを除く。)の使用者
ア 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物の敷 地の境界線に接する敷地に存する建物の使用者
イ 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物の敷 地の境界線から道路、公園等の施設を挟んで隣接する建物の敷地の境界線 までの水平距離が 原則として 10 メートル以下である場合の当該建物の使用者
まずは大前提です。
この規定によって周知する対象は建物の「使用者」に対してであって、「所有者」に対してではありません。賃貸用マンションであれば実際に借りて住んでいる住人に対しての周知であって、マンションオーナーに対しての周知は不要です。
(1)自分が民泊をやりたい建物内での周知について
この場合を第9条1項が規定しています。
まずは、自分が民泊に使いたい施設内での周知です。戸建であれば問題ありませんが、マンションでの民泊の場合には自分以外の部屋全てに対して周知が必要になります。
302号室で民泊をやりたいのであれば、301号室や102号室や402号室・・・・全ての部屋への周知が必要になります。周知方法はポスティングでも良いので、実際は1階の玄関ポストにポスティングするような形になるのでしょうが、これはなかなかやっかいです。
1階がコンビニだったり、何らかの店舗が入っている場合でもそこに対する周知は必要です。
(2)自分が民泊をやりたい建物周辺の建物への周知について
こっちの場合の方が本来の周知という言葉の感覚に近いですね。ご近所さんへの周知についてです。
ア、民泊施設の敷地の境界線に接する敷地にある建物で、かつ、民泊施設より20m以内にある建物の使用者
わかりにくので図にしました。
ようは、民泊施設の敷地に隣接している建物ということです。あくまで、敷地と敷地が隣接しているかで判断します。
民泊施設からの外壁基準で20m以内の建物のみが対象ですので、民泊施設より20m以上離れている場合は、対象外となります。左の建物はマンションですが、その場合にはマンションの住人全てに周知が必要です。全ての部屋にポスティングが必要になります。
イ、民泊施設の敷地の境界線に接している部分が道路や公園の場合
この場合には、まずは①民泊施設の外壁から近隣建物の外壁までが20m以内にあるか②道路、公園を挟んで隣接する建物の敷地の境界線までの水平距離が民泊施設の敷地の境界線から10m以内か、で判断します。
①外壁までが20m以内で、なおかつ、民泊施設の敷地境界線から10m以内であれば、その建物の使用者には周知が必要となります。
かなりわかりにくいので、図でどうぞ。
下の家の住人への周知は不要です。なぜなら、道路の幅が11mですので、それでは民泊施設の敷地境界線から道路、公園を挟んで隣接する建物の敷地境界線まで10m以内という要件を満たさないからです。
反対に右側の家の住人へは周知が必要です。なぜなら、道路の幅は8mしかありませんので、民泊施設の敷地境界線から10m以内という要件を満たしてしまうからです。
民泊施設の近隣住民への周知については、マンションであればかなり厳しい要件となってきます。反対に戸建であれば立地条件にもよりますが、クリアできない基準ではないと思います。
冬木 洋二朗
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