住宅宿泊事業の廃止理由調査というものが、観光庁から発表されました。全国的に住宅宿泊事業の廃止件数が増加しているから、ちょっと気になるので調査してみたよ的なものです。
これを見て住宅宿泊事業はやっぱり使えないなーと思った方、いやいや住宅宿泊事業は使いようによっては非常に使い勝手がいい制度だぞと思う方、各人で感じ方は様々だと思います。ちなみに私は後者のほうです。
では、なぜそう感じだか。自分以外の民泊事業者をどんな動きをしているのか。
この調査結果から、ほんとに読み取るべき「こと」とは何なのでしょうか。今日はそこら辺を掘り下げました。
調査期間が短い理由
調査期間は令和1年9月10日~令和1年10月15日までです。なんと、1か月のみ!・・・短くない・・?
せっかくやるなら住宅宿泊事業開始時からの統計をとればいいのに・・
なんでこんな短い期間なのか不思議に思ったのですが、廃止届のひな形を見ていてその理由が分かった気がします。
そもそも、住宅宿泊事業を廃止する際には廃止届を提出しなければならないのですが、その廃止届には廃止理由として ①死亡②合併による消滅③破産手続開始の決定④解散⑤廃止の5つの項目しか、選択欄がないのです。
なので、もっと具体的に廃止の理由を調査するには職員のヒアリングしかないのです。廃止届を持ってきた事業者に保健所の職員が直接具体的な廃止の理由を聞く感じです。
おそらく今回の調査も職員によるヒアリングをメインとしたものだと思われます。だから過去の廃止理由までは遡れなかった。1か月間のみのデータになったのだと思います。
具体的な数字
こんな感じで極めて限定された期間の調査結果ですが、この調査には非常に意義のある結果が隠れています。
回答件数は223件です。住宅宿泊事業法スタート時からの事業廃止件数が1,805件ですので、これまでの総廃止数の12%ぐらいが今回の調査対象となっています。
廃止の理由で最も多かったものが「旅館業または特区民泊へ転用するため」の廃止ということでした。これが57.8%です。住宅宿泊事業の廃止理由の約6割が旅館業、特区民泊への転用です。
おそらくこの「旅館業または特区民泊へ転用するため」の実態としては、住宅宿泊事業の180日を使い切ってしまったので旅館業、特区民泊へ転用してしまおうというものかと思われます。
ここが、かなり大切です。
その他は下の資料を見てもらえればわかると思いますが、管理規約での禁止や賃貸人の承諾取り下げ等により「事業を行う権利がなくなったため」が8.1%、「収益が見込めないため」が7.2%となっています。
その他の理由については、41件 の回答中 20 件で、他の事業者に運営者が変更される等、事業継続の意思があるものとなっています。
これを見ているとネガティブな理由での廃止は非常に少ない事がわかります。ほとんどの場合は、事業は継続するけれどもより、収益がより期待できる事業形態への発展を狙いとする廃止だという事が分かります。
住宅宿泊事業の廃止が多い本当の理由
民泊を続けることを前提とした廃止理由が実に6割以上を占めているこの状態がなにを意味するのか。
それは、ほとんどの事業者が住宅宿泊事業を今後の民泊事業の収益性を見極めるための試金石として使っているという事実だと思います。
最初から、廃止を視野に入れた住宅宿泊事業なわけです。なので、ここまで廃止数が多くなってきた。観光庁が調査をしたくなるぐらいに。
比較的初期投資がかからない住宅宿泊事業でまずは民泊を始めてみる。その後、半年間様子を見て、いけそうなら旅館業へとステップアップする。いけなさそうなら民泊事業から撤退する。旅館業へステップアップする場合には、自分で半年間民泊事業をやってみた結果の数字がありますから、旅館業への設備投資も安心して行えます。
なので、この調査結果の本当の意義は、このような180日運用後の旅館業転換スキームを多くの事業者が実際に行っているという事実を確認できたことにあると思います。
まずは、比較的コストがかからない住宅宿泊事業で民泊事業の収益を試しておいて、その後どうするか考える。
こういったスキームを実際に行っていた人達が一定数いたという事が今回の調査から明らかになった。そうゆう事がこの調査結果から読み取れるかと思います。
事前に収益性を確認できる、この住宅宿泊事業からの切り替えスキーム。非常に使い勝手が良いスキームだと思います。
したがって、ここにきて住宅宿泊事業の廃止数が増加しているから、民泊はもう儲からないとかそうゆう事ではなく、住宅宿泊事業のプレイヤー達が、民泊に本腰を入れて旅館業のほうへシフトしはじめただけ、という事だと思います。
冬木 洋二朗
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